大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 平成2年(ワ)1058号 判決

主文

一  原告の被告らに対する本訴各請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

理由

第一  申立

一  原告

1  原告と被告甲田株式会社(以下「被告会社」という。)及び被告乙山竹子(以下「被告竹子」という。)との間で、同被告が被告会社の取締役の地位にないことを確認する。

2  原告と被告会社及び被告丙川一夫(以下「被告丙川」という。)との間で、同被告が被告会社の監査役の地位にないことを確認する。

3  (被告会社のみに対する請求)

(一) 主位的請求

被告会社の平成二年二月二三日開催の第二三期定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)における別紙決議事項書記載の各決議(以下「本件各決議」という。)が存在しないことを確認する。

(二) 予備的請求

被告会社の平成二年二月二三日開催の本件株主総会における本件各決議を取り消す。

4  訴訟費用は、被告らの負担とする。

二  被告ら

主文第一、二項同旨。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

1  原告は、被告会社の株式二〇〇株を有する株主である。

2  被告らは、本件株主総会において本件各決議がなされたとしてその旨記載の議事録を作成し、被告竹子、同丙川をそれぞれ取締役、監査役とする登記手続をした。

3  そこで、原告は、本件各決議の不存在を主張し、被告竹子、同丙川がそれぞれ取締役や監査役の地位にないことや本件各決議の不存在の確認、予備的に同決議の取消しを求めた。

二  争点

1  訴えの利益の有無

(一) 被告らの主張

平成三年三月二二日開催の被告会社の第二四期定時株主総会(以下「第二四期株主総会」という。)において、被告竹子を取締役、被告丙川を監査役に選任する旨の決議がされ、また、本件各決議の取消しが確定したときに備え、再度、別紙決議事項書の決議事項等の承認の決議がされ、被告竹子、同丙川は同総会の終結のときに任期満了によりそれぞれ取締役、監査役を退任し、同総会において新たに選任され、その旨の登記を了したのであるから、もはや、同人らの地位の不存在の確認と本件各決議の不存在ないし取消しを求める確認の利益、訴えの利益はこれを欠くに至つたというべきである。

(二) 原告の主張

取締役を選任する旨の株主総会の決議が存在するとはいえない場合、当該取締役によつて構成される取締役会は正当な取締役会とはいえず、かつその取締役会で選任された代表取締役も正当に選任されたものではなく、株主総会招集の権限を有しないから、このような取締役会の招集決定に基づく代表取締役が招集した株主総会において、新たに取締役を選任する旨の決議がされても、その決議は全株主が出席するなどのごとく特段の事情のない限り、法律上存在しないというべきであり、この瑕疵が継続する限り、以後の取締役会において新たに取締役を選任することはできないものと解される。したがつて、第二四期株主総会における選任決議の存否を判断する前提としても、本件決議の存否を確定することが必要である。監査役についても同様であり、商法二八〇条、二五八条一項により、平成三年三月二二日付けで任期満了により退任した監査役訴外乙山二郎(以下「二郎」という。)が新たに適法な監査役選任までの間、監査役としての権利義務を行うことになるのであるから、その様な法律関係を確定するための前提として、被告丙川の監査役選任決議の存否を確定する必要があり、いずれにしても訴えの利益がある。

2  本件各決議の存在の有無

(一) 原告の主張

訴外乙山一郎(以下「一郎」という。)は、平成二年二月九日、被告会社の代表取締役社長として計算書類の承認のために本件株主総会を招集した。その招集通知に目的事項として記載されていたのは、第二三期営業報告等であつた。ところが、当日、一郎が議長席に着き、議事を進めようとしたところ、訴外乙山夏子(以下「夏子」という。)が「一郎は、平成二年二月一七日代表取締役を解任されたので自分が議長をする。」と発言し、一方、一郎も「解任は無効であるから、議長を務める。」と反論し、議長をどちらがするかで揉め、結局、同総会は議長が決まらないまま流会となつた。その後に株主総会がされた形跡はない。

なお、被告竹子らがその取締役就任等の登記手続のために所轄法務局に提出した本件株主総会の議事録には、出席取締役として訴外乙山マツ(以下「マツ」という。)の記名捺印がされているが、当日、同人が総会の会場に姿を現したことはなかつたのであるから、虚偽の記載がされたにすぎない。

(二) 被告らの主張

本件株主総会の決議は適法にされたものである。

一郎は、平成二年二月一七日の取締役会において代表取締役を解任されていたため、株主訴外丁原松子(以下「松子」という。)において、開会冒頭にこの間の事情を説明して一郎が議長をすることについての異議を述べ、議案書を配り、株主間で議長の調整が図られた上、代表取締役夏子が議長をすることになり、議事の進行がされたものである。一郎らは、途中で退場したが、その後も審議はされ、議決権の過半数の賛成により、本件各決議がされたものである。

3  本件各決議取消の事由の有無

(一) 原告の主張

商法二三二条、被告会社定款第一四条によれば、株主総会を招集するには、会日より二週間前に各株主に対して、会議の目的である事項を記載した招集通知を発することを要するものとされている。これは、各株主に対して総会出席への機会と議決権行使のための準備期間を与えるために設けられた強行規定である。しかるに、本件招集通知は、総会当日に会場で配られたものであり、右強行規定に反するから、著しい違法をきたすものである。

また、本件株主総会は、最初から最後まで議長の決定について紛糾し、議長が決まらないまま流会となつたものであつて、出席株主、委任状、株式総数の確認や総会の適法な成立の確認等の手続も履践されず、更に各議題についての提案理由や趣旨の説明もなく、その審議や議決もされなかつたのであつて、その審議及び決議方法は著しく違法であるというべきである。

したがつて、本件各決議は取消しを免れない。

(二) 被告らの主張

本件株主総会について取り消されるべき瑕疵はない。

第三  当裁判所の判断

一  本件訴訟に至る経緯等について

当事者間に争いがない事実と《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1  当事者等

被告会社は、昭和四二年三月訴外亡乙山松太郎(以下「松太郎」という。)により設立された事務機販売等を目的とする同族会社である。同会社は、事務機用機器の生産、流通、販売過程を合理化、近代化するため、博多駅周辺に近代的なテナントビルを建築し、ビル内に各種新鋭機器を展示、販売するとともに事務機械取扱者(オペレーター)の養成を図ることも同会社の事業内容としている。なお、松太郎は、被告会社設立以前に既に事務用機器の販売会社である乙田株式会社(以下「乙田」という。)を設立しており、他に株式会社丙田(以下「丙田」という。)も設立し、長男一郎らの協力を得てこれらを経営いていた。一郎は、右乙田等の設立当初から松太郎の仕事を手伝い、昭和五〇年に乙田の代表取締役に就任し、松太郎が昭和五八年一一月二〇日死亡した後、被告会社の代表取締役社長に就任し、これらの会社を経営していた。なお、丙田及び乙田の本社は被告会社ビル内にあつた。

松太郎には、長男一郎、二男二郎(同人は、丙田の代表取締役に就任している。)のほか、妻マツがあり、同女との間に長女丁原松子(以下「松子」という。)、二女被告竹子、四女戊田梅子(以下「梅子」という。)、五女甲原春子(以下「春子」という。)、六女夏子を儲けており、右マツら及び一郎の妻乙山秋子(以下「秋子」という。)もそれぞれ昭和五八年頃から被告会社の取締役或いは監査役に就任し、その登記もされていた。

2  被告会社の経営状況

マツは、松太郎の死亡後、二男二郎と同居していたが、昭和五九年二月に梅子と同居し、さらに昭和六〇年八月からは夏子と同居するようになつた。マツは被告会社取締役としての報酬の支給を受けていたが、夏子は家族らをかかえており、マツの扶養と自らの生計を立てるのに苦慮していた。

被告会社の経営は思わしくなく、手形不渡り等の不測の事態が予測される状況になつた。また、被告会社の株主である姉妹ら間では、株式の配当が低額になつたことを契機として、一郎がマツ名義の被告会社の株式を一郎所有名義に変更したことや母マツに対する扶養を怠つていることの不満が出るようになつた。姉妹らは、それまでの間、被告会社の取締役に登記されているものの、実質上の経営等には関与していなかつたが、これを改めるべきであるとの意見が強くなり、監査役である被告竹子において被告会社に対し、監査のための書類関係の提示を求めたものの、これを拒絶されたため、さらに、姉妹らは、母マツの扶養や同居している夏子の生活費用の捻出、マツ名義の株式の一郎名義への移転の阻止等についての話合いをした結果、一郎の被告会社の経営を正すこととし、新たに姉妹の中から被告会社の代表取締役一名を増員することにした。

3  夏子の代表取締役選任の経過

平成元年一二月ころ、被告会社の取締役は、「一郎、マツ、梅子、秋子、松子、春子、夏子」の七名であり、監査役は「二郎、被告竹子」であつた。同月一日、長女である松子において姉妹を代表し、被告会社代表取締役社長である一郎に対し、定例取締役会の開催そのほかの業務運営に関し、取締役会を開催するよう請求したが、一郎は、その後五日以内にその招集通知を発しなかつた。そこで、松子らは、一郎が取締役会を開催する意思がないものと判断し、同月八日付郵便をもつて被告会社の各取締役に対し、附議事項「業務上運営の件、そのほか」とし、日時「同月一四日午後一時より」、場所「丁田ビル七F」として臨時取締役会を開催するのでこれを招集する旨の通知をした。

同年一二月一四日、被告会社の取締役、監査役全員が出席して取締役会が開かれた。会の冒頭において、松子から議長として夏子を選任する旨の提案がされ、一郎も消極的ではあるが、一応承認の回答をし、そのほかの取締役に異議がなかつたので夏子が議長をすることになつた。書記役を竹子が務めることになり、松子により議案書が配付されて審議が進められ、第二号議案(マツから姉妹らへの株式譲渡承認の件)の審議に入ることになつた際、一郎がマツの持株の一部の譲渡を受けたとして異議を述べたものの、姉妹やマツは賛成の立場であつて、各姉妹らがそれぞれ一〇〇〇株ずつをマツから譲渡を受けることの承認が可決された。同議案の可決された後、マツは退席し、第一号議案である代表取締役として役付取締役増員の件として取締役中より代表取締役専務一名、常務取締役二名を選任することが審議され、一郎は反対意見を述べたが、多勢に無勢であり、代表取締役専務に夏子が推薦され、挙手により賛否が問われた結果、松子、春子、梅子が賛成し、夏子を代表取締役に選任することが可決され、その後、同月二二日、夏子の代表取締役就任の登記がされた。

なお、一郎は右取締役会の議事録を作成しなかつたが、夏子らは、同取締役会の状況をテープに録音しており、平成元年一二月一四日付けで被告会社取締役会議事録を作成した。同議事録では、「取締役総数七名、出席取締役数七名」とし、招集責任者取締役松子の提案により出席取締役全員同意をもつて取締役夏子を議長に選任票決し、議長夏子開会を宣し、下記議案の審議に入つた。マツの体調から同女所有の株の譲渡承認の件が先に審議、承認され、同女の退出後、役付取締役増員の件として審議がされ、前記のとおり可決された。」旨が記載されている。

4  その後の取締役会と一郎の代表取締役解任

その後、同年一月二〇日に六名の取締役が出席(マツは欠席した。)して取締役会が開かれ、一郎が議長となり、第二三期定時株主総会の決議事項の付議等が審議され、取締役、監査役の選任と報酬の件等が株主総会に付議されることになつたが、具体的な取締役等の報酬額は決まらないままとなつた。なお、このころ、被告竹子は、被告会社の監査役として第二三期決算の監査をすべく、被告会社を訪れたが、一郎は書類等の閲覧にも応じなかつたので、姉妹らは次第に態度を硬化させるに至つた。

一郎は、被告会社の代表取締役社長として各株主に対し、平成二年二月九日付けで、附議事項を第一号議案「第二三期営業報告、貸借対照表、損益計算書承認の件」、第二号議案「利益処分案承認の件」とし、開催日時「平成二年二月二三日午前一一時から」、場所「甲田本店会議室」とする株主総会招集の通知をした。

同月一七日定例取締役会が開催され、マツ以外の取締役全員が出席した。最初は夏子が議長になり、取締役、監査役の報酬の件が前回の取締役会に引き続いて審議され、報酬総額三一八〇万円として株主総会に図ることが全員一致で可決され、次に取締役の変更について討議され、秋子が取締役を退き、二郎にその地位を譲る案については、夏子から被告竹子が監査役の任期を終えるので取締役の欠員を補充し、監査役として新たに被告丙川を充てる案が提案され、賛否が問われたところ、四対二で被告竹子を取締役にする案が可決された。もつとも、秋子は、辞表を出すことは渋つたままであり、結局、株主総会の動向により取締役が二郎となつたときは、同女が辞表届けを出すことになつた。

その後、株主名簿の確認等についての資料が配付されたところ、一郎から同名簿記載のマツの持株八八〇〇株については五〇〇〇株が正しく、一郎分二八〇〇株とあるのは六六〇〇株のはずであるとの抗議がされ、姉妹らはこれに反論し、さらに被告会社の経営悪化、議事録作成の経緯等が議論され、姉妹らは一郎の専横的な態度が変わらないままであるとして、退任を求める発言をするようになつた。夏子が議長になり、挙手を求めた結果、松子、梅子、春子、夏子の四名が賛成したので、夏子は賛成多数により一郎の解任決議がされた旨を宣した。一郎は任期途中であるから、代表取締役社長の地位を保持している旨述べて抗議した。

5  本件株主総会開催の経緯等

平成二年二月二三日午前一一時頃から被告会社本店において定時株主総会が開催された。被告会社の当時の株主名簿では、株主及び株数は、一郎二八〇〇株、原告(乙田の取締役である。)二〇〇株、乙田二八〇〇株、夏子、梅子、松子、春子各八〇〇株、被告竹子一八〇〇株、訴外丁原松夫(松子の夫)四〇〇株、マツ八八〇〇株であり、これらの株主全員が出席していた(乙田、マツはそれぞれ代理人訴外戊原五郎、同夏子が出席した)。同日、同所で乙田の株主総会も予定されていたが、同総会は短時間のうちに終了し、引き続いて被告会社の株主総会に移つた。

冒頭、進行係りである被告会社の乙川総務部長が一郎に対し、「第二三期定時株主総会を開きます。議長お願いします。」と発言し、これに応じて一郎が発言しかけたところ、松子において「ちよつと待つて下さい。違うんじやないですか。」と制止し、夏子において二月の定例取締役会において一郎が解任された旨を告げ、松子が予め作成しておいた第一号議案「第二三期営業報告」、第二号議案「利益処分承認の件」、第三号議案「株主名簿の確認と承認」、第四号議案「取締役及び監査の報酬と選任の件」との記載のある議案書を各株主に配付した。これに対し、一郎が異議を述べて抗議し、原告や戊原は、一郎が議長であるべきであると発言し、一方、丁原松夫や姉妹らは夏子が議長をすべきであるとの発言をした。そこで、夏子において、自分が議長をすると述べて株主の賛否を問うたところ、丁原松夫や姉妹らはこれに賛成したので、夏子は議長に選任されたものとして議事を進めることにした。夏子は、開会を宣言し、乙川総務部長に営業や経理関係の説明を求めたところ、同部長はこれを拒否し、一郎や原告、戊原らとともに会議場から退席した。しかし、姉妹らは残つたままであり、夏子は議長としてそのまま議事を進行させ、一郎側の提出していた決算書の承認、被告竹子の監査役の辞任とこれに関連する被告丙川の選任、被告竹子の取締役の選任の件など、順次本件各決議の付議事項が審議され、可決がされた。

なお、被告会社の定款第一五条には「株主総会の議長は、取締役社長がこれに当る。取締役社長に事故あるときは、取締役会の決議をもつて予め定めた順序により他の取締役がこれに当る。」と定められていた。また、その後、平成二年二月二三日付けで、取締役被告竹子、監査役同丙川の各登記がされた。

6  第二四期定時株主総会の開催

平成三年二月二〇日、取締役梅子から代表取締役夏子に対し、定時株主総会の議題等を審議するための取締役会開催の要求がされ、同月二三日、夏子は同年三月三日に取締役会を開催する旨を全取締役に対して通知した。同日、夏子、松子、被告竹子、梅子、春子のほか監査役二郎、被告丙川が出席して取締役会が開かれ、同年三月二二日午前一〇時三〇分から福岡市博多区内の戊野ビルにおいて第二四期定時株主総会を開催することとしてその招集をする旨及び同総会の議案は、利益処分案(第一号議案)のほか、取締役選任に関する議案(第三号議案)、監査役選任に関する議案(第四号議案)及び本件株主総会における本件各決議の取消しがされた場合に備え、その取消しが確定した場合に遡つて効力を生ずるとして「第二三期貸借対照表、損益計算書及び利益処分案承認の件」(第五号議案)等であり、取締役候補者は「マツ、松子、被告竹子、梅子、春子、夏子」の六名が予定されていた。その後、被告会社株主に対し、右議案等を記載した同総会開催の通知が送付された。

同月二二日、前記戊原ビルにおいて被告会社の第二四期定時株主総会が開催された。出席株主は本人出席六名、代理人出席一名であり、その所有株式数合計は一万四二〇〇株であり、同総会には被告会社の顧問弁護士、税理士も同席しており、審議の結果、発行済株式総数二万株のうち出席株主全員の賛成のもとに議案書のとおり、決議、承認等がされた。

その後、同年四月五日、各取締役の重任の登記がされたが、一郎は右のとおり第二四期株主総会で選任されなかつたため、同日取締役退任の登記がされた。

7  その後の事情等

一郎は、前記のとおり平成二年二月一七日の取締役会において同人の代表取締役解任が可決されたため、同年三月、当裁判所に対し、夏子が被告会社代表取締役の地位にないことの確認及び一郎が被告会社代表取締役の地位にあることの確認を求める訴訟を提起し、また、同年には、マツから昭和六〇年七月以後合計三八〇〇株の譲渡を受けたとして、被告会社や夏子を相手方とする持株数の確認を求める訴え等を提起し、以後、夏子らと被告会社の経営権を争つている。

二  被告竹子、同丙川の取締役等の地位にないこと及びその選任決議の不存在の確認、取消しを求める訴えの利益の有無について

被告会社定款第二〇条では、「取締役及び監査役の任期は、就任後に年内の最終の決算期に関する定時株主総会終結のとき迄とする。」(一項)、「増員又は補欠により就任した取締役の任期は他の在任取締役の任期の満了すべき時までとする。」(二項)と定められているから、増員等として選任された被告竹子、同丙川はいずれも次期の株主総会終結のときに他の取締役らとともに任期満了により退任するはずのものであつたところ、右一、6のとおり、代表取締役夏子の招集により第二四期株主総会が開かれ、次期の取締役等が選任されるなどし、また、第二三期決算書等の承認も第二三期株主総会の決議が取り消された場合には効力を有することになるものとして承認の決議がされたのであるから、第二四期株主総会の有効な終結を前提とする限り、被告竹子らの取締役等の地位の不存在を確認し、その選任決議を取り消す利益は、失われたといわねばならないところである。

しかしながら、右一、6のとおり、第二四期株主総会は、被告会社株主全員の出席のもとに開催されたものではない上、一、1ないし4、7のとおり、被告会社の経営権をめぐつては、一郎と夏子ら姉妹との間に争いがあり、一郎によつて夏子の代表取締役の地位にないことの確認を求める訴訟及び一郎所有の株式数をめぐる訴訟等が提起され、被告会社らとの間で争われているのであるから、第二四期株主総会が瑕疵なく招集され、終結したとは断言することができないといわねばならない。

したがつて、本件各訴訟の訴えの利益等が失われたとの被告らの主張は採用することができない(夏子の代表取締役の登記がされていることにより、その招集によりされた株主総会は瑕疵がないものとして取り扱われるべきであるとの被告らの主張は採用しない。)。

三  本件各決議の存在と取消事由の有無について(本案に対する判断)

原告は、本件各決議には瑕疵があるとして種々の主張をするので、一で認定の各事実をもとに以下、順次検討する。

1  招集手続が違法であるとの点について

原告は、招集権者である一郎により予め決められた附議事項を審議するものとして招集の通知がされたのに、夏子らはこれと異なる議案書等を配付したのであつて、審議がされなかつたと評価される旨の主張をし、商法二三二条一、二項は「総会日より二週間前に会議の目的たる事項を記載して通知をすることを要する」旨を規定し、定款第一四条では、「総会を招集するには、会日より二週間前に各株主に対してその通知を発するものとする。」と定められており、これらの規定等は、各株主に対し、総会決議事項等の資料収集等或いは自ら出席するか否かを決めるための準備期間を与えるなどの趣旨のものと解されるところ、一郎がした通知の附議事項は、一、4のとおり、第二三期営業報告等の二議案であつたのに、松子らは、他に株主名簿の確認等の第三号、第四号議案を加えた議案書を配付してその承認等の決議をしたものである。

しかしながら、株主総会において緊急の動議等が提出され、審議されるのはあり得るところであり、予想すべきものである上、被告会社の株主らは、いずれも一、5のとおり、松太郎の遺族や一郎が代表者である乙田の関係者であるところ、取締役、監査役の件及び株主名簿の件は、一郎のした招集の通知後の取締役会でも議論され、被告竹子の取締役就任が相当か否か及び丙川が監査役として適当か等も検討、議論され、その後に一郎は代表取締役を解任されるに至つており、一郎は、本件株主総会の議案内容等が具体的にどのようなものになるかは予測していたと解される。また、原告は乙田の取締役であり、一郎と行動を共にしていたのであり、同様に予測していたと推認することができる。被告会社の株主が原告とのその関係者及び夏子ら姉妹らであることなどを考慮すると、この点に瑕疵があるとはいえない。

以上のとおりであるから、右招集手続に瑕疵があり、これが本件株主総会の不存在を招き、或いは取消事由になるとは認められない。

2  議長の選任等が明確ではなく、総会とはいえなかつたとの主張について

原告は議長の選任の件で揉め、流会となつた旨の主張をするが、夏子らの姉妹が一丸となり、被告会社の経営に関与すべく、取締役会の開催等を求めてきた経緯は、前記一、1ないし4のとおりであつて、その結果、夏子は代表取締役に就任し、さらにその後の取締役会において一郎の代表取締役が解任されるに至つたのであり、夏子らは会議の状況を録音するなど用意周到に行動しており、本件株主総会でも一郎が夏子ら姉妹に経営権を奪われることになることからそのことへの不服、抗議として退場したにすぎないと解される。招集通知以後の取締役会において取締役社長がその地位を失つたときは定款第一五条の「取締役社長に事故のあるとき」に該当し、他の取締役が議長を務めるべきと解されるが、同条項は、他に代表取締役があるときは同取締役に議長を任せるべきであるとの趣旨とも解され、また、株主の賛否によつて議長を選任することは何ら違法ではないと解されるから、前記経緯のもとに選任された夏子が議長を務めたことは、本件株主総会の不存在さらには取消しを招来する瑕疵とはいうことができない。

3  その余の主張について

被告会社は同族会社であり、出席株主やその所有持株数等は、総会出席者が熟知しているものであることに照らすと、株主総会の適法な成立の確認がされなかつたなどの原告の主張は採用することができず、また、審議等がされなかつたとの点も同総会が一郎らの退場後、続けられたことは前記認定のとおりであるから採用することができない。

なお、同総会議事録には出席取締役としてマツの記名捺印されているところ、同人は会場に姿を現したことはなく、代理人夏子が出席したことから、マツの記名等がされたと推認されるものの、この点が総会の決議の効力に影響を及ぼすとはいえない。

4  以上のとおりであつて、原告の主張は、いずれもこれを採用することができず、本件株主総会の本件各決議はいずれも有効に成立したもので、これを取り消すべき事由はないから、原告の本訴各請求は、理由がないというべきである。

第四  結論

よつて、原告の本訴各請求はいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 牧 弘二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例